新卒女雑記録

22時ちょうど 東京発

海は水の塊

わたしは今海の上にいる。

鳥取県は境港を出発し、韓国トンヘを経由、ロシアウラジオストクまで定期運行しているDBSクルーズ運営のフェリー、イースタンドリーム号の船内である。500人乗りの船は、父が持つ漁船もどきのさっぱ船なら先がポンポンと跳ねてとても走れないほどのスピードで海を分ける。立ち上がるにも階段を上るにもいつもより重力が感じられるくらいにふらふらのわたしも船中二日目にしてもう元気になって、デッキから海を眺める余裕の船旅を満喫している。キラキラの海が大好きでずっと見ていられるような気がした。

 

9時半ごろ、雑な入国審査を終えて、韓国トンヘに一時入国したわたし達は3000円をウォンに変えて、タクシーに乗り込んだ。境港とおんなじくらいにボロな港だったのに、10分もすれば片側4車線の大通りがあらわれて、とても驚いた。フェリーのお姉さんに教えてもらった鍾乳洞へ行くことにしていたので、向かう。大通りから5分のところに鍾乳洞があることにも驚いた。中の広さとしてはわたしがかつて行った二つのものよりも狭いが、立ったままで行ける範囲としては先の二つよりも広いなあと思った。上下から伸びる石がもう直ぐくっつきそうなところに看板でHundreds years waitingと書いてあってセンスを感じた。妹は頭を勢いよく上から生える鍾乳石にぶつけた。私は高校の修学旅行で沖縄の鍾乳洞に行き、ライトのついたヘルメットを装備して水の中を歩いたときのことを思い出していた。一番奥についたとき、ガイドさんが、ここには一切の光源がないので明かりを消してしばらくしても目が慣れるということはありません。永遠の暗闇なのです。と言ったので大変な恐怖を味わったことを覚えている。その後は水の綺麗に流れているところで、グアムの鍾乳洞を思い出した。それは1時間ほどの山道?森道?を行った先にあり、中に開けたプールのようなところがあって、そこで泳ぐことができたのだ。潜っても浮かんでも底が見えた。

 

鍾乳洞を出て、マクドナルドでwi-fi乞食をして、買い物をして船に戻った。余った数千ウォンを使うのにコンビニでお土産にタバコを買った。

 

知らないうちに船は出て北へむかう。海は昨日よりも凪いでいたけれど、部屋が船の先へ変わったので昨日よりも揺れる。夜になって、星空がきっと綺麗だろうとデッキに上がれば、月が半分も出ていて明るくて、秋の空のような雲も出ていて目が慣れるまではあまり見えない。朧月夜を歌ったら、春の歌だった。そして、なぜか東の方に陸の明かりが見えた。海も空も、遠くの方まで真っ暗なのに、水平と地平の境目だけははっきりとしているのはなぜなんだろう。南を見れば月が一つの道だけ海に作って、その上に自分の影を落としていた。月は太陽の光を反射しているだけなのにこんなに明るくて変だなあとか考えていた。こういう本当に綺麗な景色を目の前にするといつも、自分の目が悪くて、全部が綺麗に見えないことがもどかしい。

 

本当に綺麗な景色というのは、少しの不安定な気持ち(私はそれをおぞぞとした気持ちと形容する)が生じるときに完成する。船の手すりにつかまって、半分身を乗り出して、まだ冷たくはないけれど、風に吹かれ、自分が海の上ひとりぽっちなんだ、と心の奥から寂しさが湧き上がったときに完成する。写真の中の風景には感じられない、後から思い出すこともできない、今だけの完璧な美しい景色をずっと味わうために、何十分も、髪が塩辛くなるのも我慢して、ずっと手すりにつかまっているのだ。

 

妹は日の出を見ると張り切って寝てしまった。私もきっと早起きするんだ。

 

 

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